[東北]厳冬期北飯豊登山 真っ白な朳差岳に会いに行く

厳冬期 北飯豊の稜線へ 東北の山

プロローグ 冬の飯豊へ

厳冬期の飯豊連峰は冬型の気圧配置になると日本海からの強風により過酷な環境になることが知られています。このため厳冬期に飯豊山に登ろうとする人はあまりいません。人を寄せ付けない厳しさの飯豊連峰…「自分が冬の飯豊に登るなんて一生無いだろうな」とずっと思っていました。

ところが、2021年の年始にふとしたキッカケで山形側から北飯豊の頼母木山へ登るルートを知りました。縁遠いと思っていた厳冬期の真っ白な冬の飯豊に行ってみたいと思い始めました。その直後から情報収集を始め、実際に厳冬期に登った人の山行記録を調べて実現可能性を探りました。「安全に行って帰ってこられるのか?雪崩リスクはどうか?悪天候時の対応は?」慎重に検討を重ねました。稜線上にある頼母木小屋に泊まろうと思っていたのですが、小屋の扉が凍りついて開かない時もあるということだったので最悪の場合に備え雪洞泊やビバークが出来る装備も整えました。そして…

天候が安定していてる機会を待ちました。ですが2021年の1月後半〜2月は自分が休める日になかなか天候が安定せずチャンスがありませんでした。もう3月になろうかという2月末に2日間だけ天候が安定しそうな日が巡ってきました。

行くならこの天候の安定した2日間しかない。

「よし、行こう!」

2021年2月の最終日、こうして厳冬期の北飯豊登山がスタートしたのです。

冬の飯豊の登山口へ

今回登る北飯豊の登山口がある場所は山形県の小国町になります。前日の夜に茨城の自宅を出発し車で東北道を一路北へ。福島JCTで東北中央自動車道へ乗り換えて米沢方面へ。米沢からは一般道で小国町を目指します。途中の道の駅で仮眠を取り、夜明け前に小国町にある国民宿舎飯豊梅花皮荘に着きました。道路はきれいに除雪されていました。今回はここから西俣ノ峰経由で頼母木山に登りそこから稜線を伝って頼母木小屋を目指します。

夜明け前の国民宿舎 飯豊 梅花皮荘
出発時はまだ真っ暗で月が出ていました

西俣ノ峰からのルートは地図には記載されていない場合もありますが、残雪期に歩かれているルートです。雪が無くなると藪が多く露出して歩きにくい箇所もあります。あまり整備されていないようなのでこのルートで登る方は十分注意をして下さい。

夜明け前に梅花皮荘を出発

途中のコンビニで買ったおにぎりを食べて準備を整えます。まだあたりは暗く煌々と月が山肌を照らしていました。ヘッドライトをつけて午前5時に梅花皮荘を出発。しばらく行くと民宿奥川入が見えてきます。民宿の間を抜けると一面の雪景色なのでここでアイゼンを装着しました。

夜明け前の飯豊稜線
飯豊の稜線と空が明るくなってくる

幸いトレースがありました。トレースを辿り西俣ノ峰の取り付きを目指します。あたりは街の灯りが全く無く、沢の水の流れる音が聞こえるだけ。月明かりが雪面を淡く照らします。

30分程で取り付き地点に到着し登り始めました。今回の核心部はこの取り付きから西俣ノ峰までのルート。事前に下調べをしてきましたが、一番難易度の高そうなのがこの取り付き地点でした。(実際、下山時には腐った雪と不安定な取り付き部分を降りるのに大苦戦することになるのですが…)

西俣ノ峰取り付きから登ってきた箇所
登ってきた後ろを振り返る

取り付き地点からはいきなりの急坂。一応トレースは付いていましたが、道はあってないようなものです。両側が切れ落ちていたり、不明瞭なところもあるので自分でルートを判断し慎重に登っていきました。

出発してから1時間ほど経つと次第に空が白んで来ました。息を切らせながら必死に登っていきました。雪がひび割れていたりする箇所もあり全くもって油断できないルートです。ここで滑落したら死にますね…。沢筋には雪崩れたあとのデブリがたまってました。

ひび割れた雪を避けて高度を上げていく
痩せた尾根を登る。雪が不安定だとかなり怖い場所だ

飯豊の稜線とモルゲンロート

AM 6:20

出発してから1時間20分。遠く飯豊の稜線が紅く染まり始めました。慌ててカメラを取り出して撮影タイム。飯豊まで来るのはかなり遠いですが、美しいモルゲンロートを見ることが出来て心から「来てよかった」と思いました。

飯豊稜線のモルゲンロート
飯豊稜線がピンク色に
望遠で稜線をズーム

出発してから1時間40分程で六曲分岐に到着。ここから尾根を辿り十文字ノ池→西俣ノ峰を目指します。(後から考えてもやはり一番の核心部は取り付きから六曲分岐まででした)

六曲分岐
六曲りの分岐地点。木に標識がくくりつけてある

尾根に登ったので見晴らしが良くなり、遠く飯豊の稜線がよく見えるようになりました。朝日が当たってとても美しい。

西俣ノ峰へ

トレースははっきり付いていたので、有り難くたどらせてもらいました。後から知ったことですが、前日に某山岳会の方々が入山されてテント泊していたようです。

澄みきった青空と真っ白な山々に心が踊ります。西俣ノ峰までは所々落とし穴のような大穴が空いていましたが、最初の取り付き地点に比べれば雪も締まっていたので歩きやすかったです。しかし所々の急登がキツく1泊2日分の重い冬装備が肩に食い込みます。

西俣ノ峰あたりをすぎると、視界が開けてきて真っ白い飯豊の稜線がはっきりと見えてきます。凍てつく寒さの中、息を切らせながら尾根を登っていきます。トレースははっきりとあり見通しも良いので迷いやすい所はありませんが、尾根の東側には日本海から吹き付ける強風により大きな雪庇が出来ていました。

人がすっぽり入るほどの大きな穴
山頂へ続くトレース

結局西俣ノ峰のピークはどこだかよく分からず。トレースを辿って上へ上へ登っていきます。

大きな雪庇

西俣ノ峰を過ぎると展望が開け飯豊の稜線がはっきりと見えてきました。東側には発達した立派な雪庇。踏み抜かないように注意しながら登っていきます。主稜線は見えるけれどもまだまだ遠いな…。

東側のはるか遠くに見えるのは飯豊本山かな?青い空と真っ白な稜線がどこまでも続く景色に目を奪われます。一応ワカンも持ってきていたのですが、雪質は程よく締まっていて踏み抜きもほとんどなくアイゼンだけで登ることができました。

後ろを振り向くと登ってきた西俣ノ峰からのルートが良く見えます。遠くにあるのは朝日連峰ですね。

左奥に見えるのが朝日連峰

さらに高度を上げていき『大ドミ』と呼ばれる地点の手前くらいまで来ました。この日は奇跡のような雲ひとつ無い青空で遠くまでよく見渡せました。この天気に感謝。

飯豊の主稜線の上から見えたのは…

登山開始から約7時間。ようやく飯豊の主稜線の上に立ちました。重い装備を担ぎながら標高差1300メートルを登るのはなかなか大変でした。特に大ドミから三匹穴まではかなりの急登で体力を消耗。大ドミのあたりで某山岳会の人たちがテントを張っていたので、テント適地としてよさそうですね。

ついに見えた日本海と飯豊の主稜線

三匹穴から少し先はゆるやかな登りとなり、稜線まで一歩一歩歩を進めます。森林限界を越えたのでほぼ木々はなく一面白銀の世界。頼木平に達すると目の前には壁のような頼木山直下の主稜線と遠く日本海が目に飛び込んできました。

雪と風が作る造形

頼母木山方面に向け登っていき、山頂を右に巻いて主稜線方面へ。

頼母木小屋

ようやく見えた頼母木小屋。トレースが続いているので朳差岳方面に行っている人もいるのかな?

頼母木山到着

PM13:00

登山口から約8時間かけて今日の宿泊予定地である頼母木山に到着しました。問題は窓が開くかどうか…。正面入口は雪に埋もれていて掘り起こさないと無理そうです。少しだけ雪を掘ってみたのですが、凍りついてかなり固くなっていたため正面玄関を掘り起こすのは諦めました。

もしも頼母木小屋が使えなかったときのために、雪洞泊かテントで過ごす準備もしてきたのですが、幸い小屋の裏側にある冬季用の二階窓を開けることができたのでそこから小屋の中に入ることが出来ました。

小屋の中で休息と食事を取ります。夕方日が傾いてきた頃になってから写真を取るために再び外へ出ました。

空が徐々にオレンジ色になっていきます。遠く新潟市や新発田市の街並みもよく見えました。上の写真にある煙突は後から調べて知ったのですが、東北電力の東新潟火力発電所みたいですね。

二王子岳の向こうに沈む夕日

頼母木山方面に登り返して、山頂近くから日本海に沈む夕日を狙います。薄っすらと海の上に浮かぶように見えるのは佐渡ヶ島ですね。

頼母木山から北側方面も一面の雪山。オレンジ色に染まります。

次第に空が茜色に焼け白い雪山もオレンジ色に染まっていきました。

こんな景色見せられたら泣いちゃうよ…

二王子岳の彼方に日が沈みあたりは暗くなっていきます。写真だと伝わりませんが、夕方になってからはかなりの強風になってきました。日が沈むのを見届けてから小屋へ戻ります。

この日の小屋は貸し切りでした。夕飯は鍋。冬は鍋に限りますw

小屋の外はゴォォーとものすごい音を立てて強風が吹いていました。冬山用に買ったナンガのオーロラライト900DXに潜り込み就寝。このシュラフとても暖かいです。

風吹き荒れるの飯豊の朝、朳差岳は諦めて帰途に

翌朝午前6時過ぎに小屋を出発。日本海側には月が浮かんでいました。この日は天候が良ければ朳差岳まで行こうと思っていたのですが、外に出てみると想像以上の強風…というか台風並みの爆風が吹き荒れる状況。ピッケルを突き刺し耐風姿勢を取らないと体ごと飛ばされそうです。こりゃ無理だと悟り、朳差岳登頂は諦めてまっすぐ下山することにしました。

夜明け前の朳差岳、今回は断念

頼母木山へ向けて昨日来た道を登り返します。風が強すぎるので、飛ばされないように注意しながら登っていきました。

頼母木山の向こうから朝日が

雪煙が巻き上がり、風にのって氷粒が顔に叩きつけられます。頼母木山の向こうから太陽が登ってきました。

新発田市方面と二王子岳
頼母木平付近からの朳差岳

1時間程あるいて頼母木平の下部付近にやってきました。ここからは朳差岳が良く見えます。強風も稜線が遮ってくれて少し穏やかな風になりました。

三匹穴までは斜度もきつくないのでサクサク下っていきます。

東側に目をやると登ってきた太陽がありました。

絶景を堪能しながらの下山

雪山の下山は膝に負担がかからないので好きです。急いでいる訳ではないのですが、さくさく下っていきました。白銀の世界に唯一人、あたりには誰もいません。昨日大ドミのところにあったテントも無くなっていました。飯豊の景色を見ながら下っていきます。

出発してから2時間半ほどで西俣ノ峰付近まで来ました。後ろを振り返ると飯豊の主稜線と連なる尾根、そして雪庇。

最後の難関! 取り付き部を下るのに大苦戦

西俣ノ峰を過ぎるとかなり斜度が急なところが出てきました。登りより下りの方が怖いですね。実はこの写真の後、最初の取り付き部分を下っていく事になるのですが雪が腐ってきていて、崩落も進み写真を取る余裕が全くありませんでした。やはりこのルートの核心部は最初の取り付きです(間違いないw)

取り付き部の崩壊しかけたヤセ尾根を綱渡りのように下っていったため、かなり時間を消費しました。一歩間違えれば滑落して大怪我に繋がりかねないので慎重に慎重に下っていきました。雪が腐っている場所もある一方で日陰はまだカチコチに凍りついていたりして、非常に精神的に消耗する下山となりました。

梅花皮荘までの道路

12:05 下山

西俣ノ峰から約2時間かけて登山口の梅花皮荘に戻ってきました。やりきったという達成感と、最後の緊張の下山から開放された気持ちが入り混じった不思議な感覚でした。

厳冬期 飯豊登山 まとめ

誰にでもおすすめ出来るルートではありませんが、冬の北飯豊の景色は想像以上に素晴らしかったです。このルートは登山口から約1400mの標高差を登らなければなりません。十分な冬山装備と準備、そして天候が安定したタイミングが重要です。

僕は今回登れなかった朳差岳が忘れられず、2021年の6月に登りに行く事になるのですが、またそれは別の記事で…。ではまたどこかの山頂で!

※頼母木小屋は一泊2000円です。管理人が居ない時は小屋内にある料金箱にお金を入れるようになっています。冬は入り口が雪で埋まっていて利用できない場合があります。窓も凍りついて開かない事もあるようなので厳冬期は小屋泊を当てにして登らないほうが良いです。

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